「情報通信技術とサービスのサプライチェーンの保護(Securing the Information and Communications Technology and Services Supply Chain)」と題したトランプ大統領による2019年5月15日付の大統領令(Executive Order)は、「外国の敵対者(foreign adversary)」が所有、管理もしくは管轄する者により設計、開発、製造または供給された情報通信技術(あるいはサービス)の獲得、販売、輸入または導入を禁じるものである。
メディアは、今回の大統領令には、中国の通信大手ファーウェイ(華為技術)を真っ向から制裁の標的にする意図があると指摘する。一方で、指定されたいずれの標的に対しても、具体的な規制や命令が提案されているわけではない。従って、これから60日間内に新しい規制が発行されることはないだろう。しかし、トランプ大統領が上記大統領令に署名した日、米国商務省(U.S. Department of Commerce)は、ファーウェイとその関連会社70社を「エンティティー・リスト(Entity List)(いわゆるブラック・リスト)」に載せ、米国企業からファーウェイへの販売は、米国商務省から販売許可を得ない限り、事実上禁止とした。
2018年8月以降、堅実な企業に対しては、ファーウェイおよびZTE(中興通訊)との取引関係には十分注意するよう忠告がなされていた。当時、米議会においては、連邦政府機関によるファーウェイまたはZTE製品の購入を禁じる法案が通過した。また、それとほぼ同時期に、オーストラリア、ニュージーランド、日本および台湾の政府が、自国の無線通信分野でファーウェイ製品を使用することを禁じた。今週初め、英国政府がファーウェイ製品の限定的禁止について引き続き検討する中、ファーウェイのオーナーは各国政府と「非スパイ」協定に署名することを約束した。英国政府の懸念は、ファーウェイ製品の健全性はもはや保証できないと結論付けた今年に入ってからの研究結果2件に起因している。さらに、フランスとドイツがファーウェイ製品に対する精密検査の厳格化を決定したことに続く形で、デンマーク、スウェーデンおよびオランダもファーウェイ製品の使用制限を検討し続けている。ファーウェイの同業であるZTEも、日本およびオーストラリアで既に締め出され、ドイツとカナダでは締め出し検討中となっている。
中国メディアの中には、中国の通信大手各社に対する締め出しを米中貿易戦争に結びつけるものもある。しかし、諸外国のメディアが中国の通信製品の信頼性に対し深刻な懸念を示す各国の高官や元高官からのコメントを多数取り上げていることや、同様の懸念を示す議会からの報告もあることは、政策立案者が安全保障問題において米中間の関税引き上げに関連付けた検討を行っていないことを示唆している。このようなことから、企業においては、米中貿易協議の結果に関わらず、ファーウェイやZTEとの取引に関して引き続き細心の注意を払っていくべきである。
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