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ニュース&イベント: 雇用/労働法/福利厚生関連情報

貴社では適切な退職(離職)合意書を作成しているだろうか?

7.8.19

概要

退職合意書(severance agreement)は、各社が使用している「雇用法ツールキット」の中でも、極めて重要なツールである。 経営幹部は、法的必要条件と会社の目標を理解せずに、インターネットからテンプレートをダウンロードしたり、または以前使ったことのある合意書を利用したりすべきではない。退職合意書は、退職・離職した従業員が会社に対して主張し得る権利を効果的に放棄させるものでなければならない。さらに、同合意書により、会社が決定すべき他の問題点にも対処すべきである。会社が退職合意書を作成したところで、そのような対処もせず、従業員が署名した効果的な権利放棄書(条項)も含まれていなければ、それは単なる「紙切れ」にすぎない。

退職(離職)合意書(severance agreement)(以下「退職合意書」と呼ぶ)の草案は、簡単に書ける。昨年弁護士が作成してくれた合意書を使って、そこに書いてある氏名と退職金を変更すればよい。または「severance agreement」という言葉をGoogleで検索し、インターネットでテンプレート(定型書式)を見つけてそれを使えばよい。

問題は、人事プロフェッショナル、CFOまたはCEOが、いかに早く退職合意書を作成できるかということではなく、同合意書に拘束力があり、それにより訴訟を回避し、貴社の目標を達成できるかである。貴社が、退職(離職)した従業員と退職合意書を交わしていたとしても、同合意書が、拘束力もなく、訴訟の回避にもならず、目標も達成できないようなものならば、それはまるで同従業員が後に弁護士を雇って訴訟を提起するために十分な資金(退職手当)を手渡したようなものである。従業員が合意書に署名してから退職(離職)してもそれに法的拘束力がなければ、その後方向転換をして、貴社を訴えることもあり得るだろう。

 それでは、貴社の課題と目標とは何だろうか?どのような文言で貴社を守ればよいのか?

  • 従業員の保護特性(protected characteristics)とは何か? 従業員の年齢は40歳以上か、または40歳未満だろうか?出身国、人種、自分自身が認識する性別(gender identity)など他の保護特性にはどのようなものがあるか?内部告発、安全面に関する苦情申立て、労務上利益を目的とした行為(concerted protected activities)など、会社が保護すべき従業員の行為のうち、従業員の行為はどれに該当するのか?年齢差別訴訟における請求権を放棄させるために効果的な権利放棄書または条項(release)は、Older Workers’ Benefit Protection Act(「OWBPA」)という法律に従うものでなければならない。退職・離職する従業員が制定法およびコモン・ローの下で訴訟を提起しないように、貴社では、退職する従業員が自ら認識する権利放棄書を作成し、それに署名してもらう。しかし、その前にまず、州・地方自治体の法律も含め、制定法およびコモン・ローの下で同従業員が有する権利を書き出してみることを弁護士は勧めている。たとえば、アイオワ州ダベンポートの従業員は、連邦法人権法第7編 (Title VII of the Civil Rights Act)、アイオワ州人権法および ダベンポート市人権条例の下で保護されている。

  • かかる権利放棄書(従業員がその認識の下で署名するもの)には、他にどのような文言を記載すべきか?カリフォルニア州のように、州法に言及する特別な文言の記載を義務づける州がある。OWBPAにより、雇用主は、従業員が退職合意書に署名する前に、弁護士との相談を勧める文言を同合意書に記載することが義務づけられている。弁護士との相談を勧めるその文言は、指示的(mandatory)なものとして記載すべきだろうか、それとも任意的(permissive)なものとして記載すべきだろうか? さらに、OWBPA は、会社が雇用終了(解雇)対象の従業員を選定したときに分析した「決定基準としたユニット(decisional unit)」に関する情報、同ユニットに属する従業員の職務地位と年齢、および解雇対象として選定した従業員と選定しなかった従業員に関する情報も、権利放棄書に記載することを義務づけている。

  • 従業員には、退職合意書について考慮するための特定期間が与えられているか? OWBPAの下では、40歳以上の従業員が、集団解雇ではなく単独で解雇される場合には、合意書に署名するまで21日間の考慮期間が与えられ、合意締結後、7日間の取消可能期間が与えられる。40歳以上の複数の従業員が解雇される集団解雇の場合には、合意書に署名するまで45日間の考慮期間が与えられ、7日間の取消可能期間が与えられる。従業員は、そのような21日間または45日間の期間が終わるのを待たずに合意書に署名できるか?従業員は、合意締結後7日以内に取り消す権利を放棄できるか?弁護士との相談を勧める文言は、指示的(mandatory)なもの、または任意的(permissive)なものを意図しているのだろうか?合意書に署名する前の考慮期間と取消可能期間は40歳未満の従業員にも与えられるべきだろうか?

  • 従業員が、合意書の条件を検討し、会社(雇用主)と再交渉をした場合、会社は、改定合意書を作成するのか? その改定箇所が重要な内容に関するものであり、従業員が最初に与えられた考慮期間をそのまま継続することに合意しない場合には、また新たに21日間ないしは45日間の考慮期間が認められる。

  • 合意書には、権利放棄条項を含めなければならないか? 含めなければならない。従業員は、特定の権利を放棄することができない。たとえば、従業員は、連邦雇用機会均等委員会(Equal Employment Opportunity Commission)において差別を理由に苦情申立てや提訴をする権利を放棄することはできない、と合衆国最高裁判所は述べている。従業員は、州の労働者災害補償法により付与された権利、または退職合意条件を履行する権利を放棄することはできない。

  • 会社(雇用主)は、退職合意書により、その知的財産を保護しているか? ほとんどの場合、退職合意書の定型書式には、「本合意書は当事者間の完全な合意である」という標準規定が含まれている。このような文言が記載されているだけで、従業員が会社の雇用時に署名している、機密・企業秘密保持、発明など知的財産権の帰属、競業禁止、勧誘禁止および⁄または従業員の引き抜き禁止に関する契約書に従い、会社が従業員に対して行使できる権利がすべて消滅してしまうことがある。したがって、会社は、従業員の保護特性と会社が保護すべき従業員の行為について検討・判断する以外に、(従業員が退職合意書に署名する前に)従業員にどのような契約上の義務があるのか、およびかかる義務が雇用終了後も存続するか否かを確認する必要がある。

  • 以前に機密保持契約や競業禁止契約を締結していない場合は? 退職合意書には、会社の知的財産を保護する文言が含まれていることがある。しかし、同合意書に競業避止および勧誘禁止条項を記載する場合は、その条件に見合う約因も記載する必要がある。競業避止条項の遵守を1年間義務づける代わりに、6か月分の退職手当(severance payments) を支給するだけでは十分とは言えない可能性がある。さらに、カリフォルニア州、イリノイ州、マサチューセッツ州およびジョージア州が、競業避止条項および勧誘禁止条項の範囲を制限しているが、そのような州が増えていることにも留意すべきである。

  • 会社および⁄または従業員は、契約上の義務を負っているか? 従業員の雇用を終了させるにあたり、会社が行うデューデリジェンス・プロセスの一部として、会社は、同従業員との間で締結している各契約について検討する必要がある。たとえば、当初、同従業員が会社から受け取った採用内定通知に契約とみなされる文言が含まれていたかもしれない。従業員を解雇する場合には、会社は、その2週間前に従業員に通知すること、または(予告期間が満了する前に雇用を解消する場合の)解雇予告手当(pay in lieu of the notice)を支払うことにも合意していたかもしれない。あるいは、従業員には、会社が従業員の転勤やトレーニングの経費として支払った金額を返済する義務があるかもしれない。会社は、かかる契約上の義務を履行する必要があり、また従業員が負う義務についても、退職合意書で対処し、決めておくべきである。

  • 会社が従業員に対してセクシャル・ハラスメントに対する請求権の放棄を望む場合はどうか? 従業員がセクシャル・ハラスメントを理由とした請求権を放棄することに合意する場合、会社は、連邦法と各州法の両法律を遵守しなければならない。まず、会社は、内国歳入法(Internal Revenue Code)に従わなければならない。本法の下で、従業員から放棄書を受け取ると、会社は、従業員に支払う退職手当をビジネス経費として税金から控除できなくなる。次に、セクシャル・ハラスメント訴訟で、会社と従業員の間で和解が成立する際、和解に関する従業員の機密保持条項を和解合意書に含めることを禁じる州もある。

  • しかし、会社が、退職の事実と退職手当について機密保持を望む場合はどうするか? 何らかの制約がある場合を除いて、会社は「当該従業員は退職の事実と退職手当の金額を同僚に共有しないことを保証する」という文言を合意書に記載することができる。さらに、従業員の家族や納税申告代理人に開示する場合、および裁判所の手続上開示が必要な場合などは例外とするが、従業員に、退職の事実および退職手当の金額を開示しないことを約束させることができる。

  • 紹介状はどうするのか?会社には、従業員の雇用の終了と退職手当を機密保持する義務があるのか? 会社は、退職合意書に、従業員の紹介状 (a letter of reference)を添付することができる。あるいは、従業員が、同僚・業者・サプライヤーから退職について聞かれた場合や就職先候補から照会先について聞かれた場合に、参照する文言を退職合意書に含めることもできる。紹介状は中立的・肯定的なもの、または人事プロフェッショナルが「ニュートラル・プラス」と言うものでよい。すなわち会社は、このような紹介状に、退職した従業員の職務内容などの事実、および場合によっては、形容詞を使わずに、同従業員が達成した業績を記載する。どのような紹介状にするかは、企業の再編成や人員削減などを解雇理由とする会社の事情、もしくは解雇された従業員の会社での地位、または解雇が同従業員との訴訟における和解交渉の結果なのか、によって決められる。

  • 会社と従業員は、termination(雇用の終了)という言葉についてどのような記載を望むか?まず最も重要なのは、会社が退職合意書に記載する文言は、退職(手続き)の間に使われる言葉と統一する必要があるという点である。政府機関や裁判所で、雇用主が合意書に記載された退職理由と異なる理由を主張すれば、同機関、裁判所または陪審員は、雇用主が「防御策の転換(shifting defense)」をして、本当の退職理由を隠そうとしていると判断しかねない。それでもなお、「termination」という言葉には、「正当な理由(for cause)」によって雇用が解消されたという意味合いがある。もし雇用主と従業員との間で雇用契約や労働組合協約が結ばれていて、「正当な理由」がなければ従業員を解雇できないと定められている場合は除くが、どの州でも全従業員の雇用は「任意(at-will)」によるものである。「雇用の終了(termination)」と「辞職(resignation)」のどちらの言葉を使うかによって、 当該従業員の失業手当の受給資格、または新しい就職先を探す際の就職活動に影響を及ぼすことがある。したがって、状況にもよるが、合意書には、従業員の雇用が「終了した(ended)」と記載すればよい。「終了した(ended)」のような中立的な言葉を使えば、会社の目的をすべて達成できる。

  • (従業員に)請求権・権利を放棄させるために十分な約因とは何か、および会社は退職合意書にどのような約因を含めればよいのか? ほとんどの契約書では、雇用主が権利放棄の約因として従業員に金員を支払うことを定めている。かかる支払は一括でも、一定の期間の分割でもよい。たとえば、もし従業員が機密保持契約や競業禁止契約により拘束されている場合には、会社は、特定期間の分割払いを好むかもしれない。分割払いにしておけば、もし同従業員による契約義務の不履行が発覚した場合、会社は定期的に継続してきた支払をすぐに中止することができる。その場合、従業員が、契約義務の不履行をしていないこと、および支払が継続されるべきことを証明するためには、訴訟を提起しなければならなくなる。

  • 雇用主は、退職合意書の中で、従業員が退職した後も継続して健康保険を給付することを約束できるか? 約束できない。仮に、雇用主が退職後も健康保険の給付を継続しても、保険会社が医療経費を支払った時点で、退職した従業員に保険の適用資格がないことがわかれば、結局、従業員が医療経費の支払責任を負うことになりかねない。しかし、解雇はCOBRA(統合包括予算調整法)の適用要件である。会社は、 COBRAによる保険料を支払うか、または 従業員が支払ったCOBRAの保険料を返済することに合意できる。ただし、会社は、当該従業員にCOBRAの権利について通知し、従業員もCOBRAによる保険の適用を選択しなければならない。

  • 雇用主は、退職合意書で再就職支援サービスを紹介すべきか?それは、 そのときの状況、会社の文化および市場における会社の評判による。たとえば、会社は、解雇される従業員が権利放棄するという条件で、従業員の1ヶ月または2ヶ月分の賃金と同等額で再就職支援サービスを雇い紹介することによって、将来生じえる訴訟を回避することができる。このように、3ヶ月分の賃金に相当する額の退職手当を支払う代わりに、会社は、退職合意書に従って、賃金2ヶ月分の退職手当を従業員に支払い、再就職支援サービス・プログラムを3ヶ月間提供することができる。しかし、再就職支援サービス会社を選択するのは、会社であり、解雇される従業員ではないこと、および従業員がかかるサービスを利用する場合にしか会社はその料金を負担しないことも、同合意書に記載すべきである。会社は、従業員が再就職支援サービスを実際に利用するかどうかわからないまま、料金を負担することを記載すべきではない。

退職合意書を作成する際には、インターネットでそのテンプレートをダウンロードすればよいというものではない。同合意書に含めるべき適切な文言を理解し、記載することによって、退職する従業員の権利放棄条項を効果的に定めることができ、さらに訴訟も回避できる。それだけでなく、適切な文言を記載することにより、会社の多種多様の目標を達成できるという点も同様に重要である。

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