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ニュース&イベント: クライアント・アドバイザリー

米中貿易戦争の行方

8.17.20
関連業務分野 商事/競争/取引

中国とビジネスをする、または中国から材料、部品もしくは製品を調達する企業の多くは、通常の取引を再開することができるよう、過去2年間にわたって米中貿易戦争の早期終焉を切望してきました。トランプ大統領による通商法301条に基づく追加関税に影響を受けてきた数多くの企業にとって、主な関心は「コスト」にあります。中国以外の国から製品や構成材を調達するコストや、生産活動を他国に移管することで生じるコストおよびタイムラグ(時間のずれ)は、複数の業界において法外とみなされてきました。それでもなお、その他多くの業界では、中国における外資系製造企業のための地方税優遇措置の打ち切りと現地賃金の絶え間ない上昇に伴い、2016年以降、中国や現地工場からの大々的な生産移転および調達先変更が既に始まっています。

しかしながら、米中貿易戦争は、中国から調達せず、また米国市場への中国製品の輸入を求めることもない、日本のような第三国の企業にも直接的影響を与えてきました。米国技術を利用したり、米国政府による制裁の対象となっている中国企業と商取引をしたりする外国企業は、米国輸出規制下でより一層の圧力下に置かれています。企業は皆、新たな米国大統領が選ばれるか、新たな米中貿易協定が成立すれば、これらの輸出規制に終わりが見えてくるかもしれないと期待する傾向にあります。

しかし、米中貿易戦争が短期的問題であると信じ続けることは、おそらく現実的ではないでしょう。2002年から2018年まで、中国との通商関係は、ビジネス上の収益性に支配されていました。その後、置き去りされていた政治的問題が、より多くの各国政府が中国とどのように付き合うべきなのかを支配するようになっていきました。過去20年間、中国と世界の主要先進民主主義国家との貿易関係は、次の3件の主な理解の上に形成されていたことに留意することが重要です。

  • 1989年の対中国武器禁輸措置 (この禁輸措置は、天安門広場で抗議活動者を中国政府が弾圧したことを受けたもので、米国、EU、およびその他複数の主要貿易国では、今もなお有効です。)
  • 対中貿易の増加は中流階級中国人の増加をもたらし、結果的により開かれた中国経済/市民社会が実現できるとした、政策立案者達により大々的に表明された推測
  • 中国による2001年のWTO 加盟協定(この協定により、中国は国際貿易に自国経済を開くことを約束する代わりに、中国が他のWTO加盟国よりも低い輸入関税や様々なWTO貿易特権を享受することが認められました。)

基本的に、WTO加盟国は、外国企業が中国市場で自由に経済活動できるようになるという約束および期待と引き換えに、より低い輸入関税を含む、自らの貿易グループに中国による加入を許可した訳です。一方、中国への武器販売は、過去31年間、多くの国により制限されたままとなっています。

マイク・ポンペオ米国国務長官が2020年7月23日に行った中国に関するスピーチは、中国への武器販売は引き続き制限されるべきで、国際貿易を通じては中国のリベラル化は進んでおらず、また中国は自らの約束に従った行動をとっていないとする、米国政府の見解を明らかにするものでした。結局のところ、これらは米国政府による政治的決定ですが、これと同じ見解は、他国政府からも表明される傾向にあります。

ヨーロッパによるこれまでの対中国貿易制裁は、一般的に米国のそれと比べはるかに控え目なものでした。しかしながら、中国輸出政策への圧力は、欧州共同市場においても高まってきています。昨年6月、中国は、アンチ・ダンピング関税の査定上、EUによる「市場経済国」としての扱いを求めて提起したWTO 訴訟が敗訴に向かった際、中国は自国に不利なWTO裁定が公表される前に当該訴訟を急いで取り下げました。米国、EUおよび日本を含むその他主要経済は、中国が2001年のWTO 加盟協定で「自由経済国」への移行を約束したにもかかわらず、中国は未だ「市場経済国」のステータスに達していないとの立場を取りました。今や中国はWTO訴訟での成功を期待できないことから、多くの先進国市場における鉄鋼等の中国製品の輸入ダンピング率は、中国の価格ではなく、より資本主義的な第三国の価格を使用して計算され続けることになるでしょう。第三国の価格の使用は、世界中で極めて低価格で輸入される様々な中国製品に対し、継続的に制裁が課さられていくことを一般的に保証するものと言えます。

中国が香港特別行政区に対して導入した新たな国家安全維持法は、西欧諸国の政府から、上述の基本的理解3件に再度結び付くような反応を引き起こすこととなりました。英国、カナダ、オーストラリア、ドイツ、およびニュージーランドの各国政府は、当該新法への懸念から、香港との犯罪人引渡条約を既に停止しています。これらの政府の大半は、中国の武器輸出禁止は香港にも拡張適用されるとも公言しています。米国政府においては、香港との犯罪人引渡条約を停止することを約束するとともに、香港の特権的貿易地位も無効としました。今夏の米国輸出規制における変更により、香港を対象にした適用除外は既に削除されるに至っています。それに加え、米国およびEUの両者は、中国人および中国企業に対する制裁を開始し、英国政府にも同様の措置をとるよう圧力をかけています。これらの制裁の根拠は、中国によるサイバースパイ活動への関与から人権侵害までと様々です。こうした制裁は、ここ数年の間に複数の国で講じられた、5G通信ネットワークへのファーウェイおよびZTEの製品の使用制限に更に追加される形で課せられた追加制裁です。また、インドは現在、何十または何百ともある中国製アプリのインド国内での使用を阻止しようと進めています。

ビジネスの世界では、今年の米国大統領選挙が米中貿易戦争の終焉を招いてくれると、今もなお信じ続けている人達がいます。そのような可能性はゼロではないでしょう。しかし、そうした可能性はますます遠のいているように見受けられます。第一に、中国企業への技術移転や中国製通信技術の使用を制限したり、または中国輸出業者によるダンピングを罰しようとしたりしているのは米国政府だけではないということが挙げられます。第二に、間もなく行われる米国大統領選挙でトランプ大統領への挑戦者となるジョー・バイデン氏は、トランプ大統領が中国に対して十分に厳しい対応をしてこなかったと公に批判しています。先月、米国上院は台湾をサポートすることを再確認した(つまりは、中国を無視した)防衛法案を86票対14票で可決しました。EUでは、中国への武器禁輸を維持すべきか否かをめぐり、欧州議会にて投票が行われた際、賛成(373票)が反対票(32票)を上回りました。世界のより多くの首府において、中国の慣行に対する懸念が超党派的な問題になってきていることは純然たる事実と言えます。このような世界的な傾向を覆すことは非常に困難でしょう。

企業においては、下記に列挙する「長期的現実となることが予期される事項」に適応していく必要があると考える方が賢明でしょう。

  • 日本政府が言及した優先事項に則して、中国への武器販売は継続して禁止されるとともに、当該禁輸は、中国に移転されるハイテク製品や「軍民両用」(商用および軍事の両方に適用できる)製品に対してより厳格な規制が敷かれる状況をもたらし続けると思われること。
  • 日本はもちろん主要西欧市場の多くは、ファーウェイ、ZTEおよび同様の中国通信機技術企業を市場から締め出すか、あるいは制限をかけていくと予期されること。
  • ますます多くの中国人および中国企業が、複数の西欧政府が課した資産凍結や輸出制裁の対象となると思われること。
  • 欧州、米国およびその他の主要市場において、中国が輸出する鉄鋼、アルミニウムおよび類似製品に対して、引き続き厳しいアンチ・ダンピング関税が課せられるであろうこと。

日本企業にとっては、最後に列挙した「アンチ・ダンピング関税の継続」という現実が、しばし対応準備困難な問題となっています。日本で発動されているアンチ・ダンピング措置はほとんどない一方で、日本企業の子会社が事業を行う米国やEUでは、そのような措置は数多く存在します。日本企業グループが、中国から製品を大量に購入し、それらを関連会社に供給することにより、安価で済ませることを実現している限り、アンチ・ダンピング体制における日本および西欧諸国間のギャップは、日本企業の海外子会社にとって大きな経済的負担となり続けるでしょう。

その一方で、中国原産品への301条輸入関税や、現在提案されている中国共産党員の入国禁止等、トランプ政権下の鈍器は、民主党大統領の下でより良く改正されるか、あるいは廃止されるかもしれません。

しかしながら、オーストラリアおよびニュージーランド政府による最近のコメントは、世界経済の未来をより的確に予示していると言えます。先月、両国政府は中国に対してより厳格な対策をとり始めました。他方、いずれの政府も、中国との全体的な貿易関係は自国にとって重要なものであると慎重に述べてもいます。もし2021年に米国の政策が変更されれば、米国自らも、自国がこれまで述べてきた安全保障上の懸念と世界経済における商品/サービスの自由な流通の必要性との間で均衡のとれた解決を見出そうとする可能性が高いです。米国大統領選挙の結果がどうであれ、各国の政府は中国が他国とどのようなやり取りをしていくのかをより注視しようとするでしょう。こうした状況は、自らの取引が規制の対象となるか否かを見極める義務を引き続き企業に対して課していくことになります。

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