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雇用主は要注意!「引抜禁止」協定により生じる独占禁止法上のリスク

6.23.21
関連業務分野 商事/競争/取引

米国司法省(「DOJ」)は、競合他社との間で、互いの従業員の雇用や勧誘を禁じたり、またはそのような場合の賃金を一定額に限定したりするための取り決めを含む、いわゆる「引抜禁止」協定を締結している雇用主に対し、独占禁止法に基づく刑事責任を追及すると従来より警告しており、実際にエンフォースメントを行っています。雇用主の行為が犯罪行為であると認められた場合、1億ドル以上の罰金が科されるほか、被告人である個人に対して懲役刑が科される可能性があり、さらに、最近の民事訴訟事件における和解金額は、数億ドル規模に達しています。

引抜禁止協定は、DOJとAdobe、Apple、Google、Intel、Intuit及びPixarを含む複数の大手ハイテク企業との間で和解が成立した2010年から注目されてきました。DOJが和解条件としてこれらのハイテク企業が締結していた引抜禁止協定の廃止を求めたことから、当該協定により影響を受けたと主張する従業員から相次いでクラスアクションが提起されるに至り、最終的な和解金は4億ドル以上に上りました。以降、DOJおよび米国取引委員会は、企業間に正当な協力関係や取引関係が存在しない限り、雇用や勧誘を禁じる協定の使用を許容しない旨の2016年ガイダンス及び複数の警告を発してきました。2021年1月には、DOJは、外来手術施設の運営会社であるSurgical Care Affiliates LLC (「サージカル・ケア」)が競合他社と共謀し、互いの上級職員の勧誘を禁じる取り決めをしたと主張してテキサス州の連邦裁判所においてはじめて引抜禁止に関する刑事訴追を行い、実際にエンフォースメントを行うに至りました。その後間もなく、2021年4月にネバダ州ラスベガス市でも、ヘルスケア人材派遣会社と同社の元経営者の一人が、競合他社である人材派遣会社との間で看護師の派遣と賃金の固定を目的として違法な協定を結んだとして、大陪審の決定に基づき起訴されました。

テキサス州の事件の被告人サージカル・ケアが、米国商工会議所とともに、米国独占禁止法上、米国政府が勧誘禁止協定を違法行為として訴追することを支持する充分な先例がないことを理由に、訴えの却下を申し立てたことは特記すべき点です。2021年5月、DOJは、競合者同士で勧誘を禁じたり、または派遣スキームを用いたりして労働市場の分割を試みることは、長年にわたり非合法的行為とみなされてきたと反論しました。サージカル・ケア事件の却下申立に対し、裁判所が今後どのような判断を下すかにより、引抜禁止協定の訴追における米国政府の姿勢が変わる可能性はありますが、雇用主においては、上述のような労働市場における明らかな刑事上及び民事上のリスクに留意すべきです。特に、競合相手との契約において雇用禁止・勧誘禁止条項を含むにあたっては慎重なリーガル・レビューを行い、かつ、賃金固定に関するいかなる取決めも避けるべきです。

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