概要
- 2024年1月9日、米国労働省(United States Department of Labor、以下「DOL」といいます。)は、連邦法の下で、どのような場合に、事業主が労働者を、従業員 (Employee)ではなく、独立請負人 (Independent Contractor) として扱うことができるのかという点に関する待望の最終規則 (以下「本最終規則」といいます。)を発表しました。これは、2022年10月にDOLが提案した、公正労働基準法(Fair Labor Standards Act、以下「FLSA」といいます。)に基づく従業員と独立請負人の分類基準(Employee or Independent Contractor Classification Under the Fair Labor Standards Act)の最終版です。
- 本最終規則は、労働者が、従業員と独立請負人のどちらの分類に属するかを判断するための6つの要素によるテストを定めています。
- 本最終規則は、従前のDOLのガイダンスや2021年に発表された独立請負人に関する規則とは大きく異なります。
- 2024年1月10日に連邦官報 (Federal Register) で公表された最終規則は、2024年3月11日に発効します。
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2021年に発表された独立請負人に関する規則を廃止
DOLは、2021年1月にも労働者の分類に関する規則(以下「旧規則」といいます。)を発表しました。公正労働基準法に基づく独立請負人の地位(Independent Contractor Status Under the Fair Labor Standards Act)、と題されたこの規則は、労働者と事業体との関係性の性質を判断するための経済的実態(Economic realities)テストを支持しました。旧規則は、労働者の地位の分析において考慮されるべき要素を例示列挙したリストを提示しつつ、(1) 業務に対するコントロールの性質と程度、および(2) 労働者の損益機会、という2つの中核的要素に焦点を当てることで、分析を合理化しようとしました。これは主に、独立請負人の分類基準に対する事業主寄りのアプローチと見られていました。
本最終規則
以前に当事務所のニュースレターでも取り上げましたが、DOLは2022年10月に規則案を発表した際に、2021年の旧規則を廃止して、労働関係の状況を総合的に勘案する、6つの要素による分析に戻そうとしました。この分析方法は、労働者を独立請負人に分類しにくくするものであると考えられています。本最終規則は、この2022年の規則案にわずかな修正を加えて、同じ目的を達成するものです。労働者と事業主との関係の経済的実態は状況を総合的に勘案して評価されるべきである、というDOLが長年維持してきた見解に沿って、本最終規則はDOLと連邦裁判所が歴史的に適用してきた6つの経済的実態の要素による分析に回帰しています。
本最終規則では、FLSAにおける従業員または独立請負人の地位を分析するために、以下の6つの要素を適用しています。
- 労働者の損益機会
この要素は、労働者が業務を行っていく上で、自らの経済的成功または失敗に影響を与える経営的な能力(主導権(イニシアティブ)や、ビジネス上の洞察力または判断力を含みます。)に基づき、利益を得る、または損失を被る機会を有しているかどうかを考慮します。これにはとりわけ次のような事実が関連します。(1) 労働者が賃金を決定することができるか、または賃金に関する有意義な交渉に関与できるかどうか、(2) 労働者が仕事の諾否や仕事を行う時期を決定する権限を有するかどうか、(3) 労働者が自身のビジネスを宣伝するかどうか、(4) 労働者が、他者の雇用、資材や設備の購入、および/または場所の賃貸について決定を行うかどうか、という事実です。労働者が損益の機会を有しない場合、その者は従業員の地位にあることが示唆されます。
- 労働者による投資と事業主による投資
資本的または起業家的性質を持つ投資は、一般的に、独立したビジネスを支え、ビジネス類似の機能 (たとえば、様々な種類の作業を行う能力を高める、コストを削減する、または市場範囲を拡大するなど)を果たすものであるため、そのような投資を労働者が行っている場合、当該労働者は独立請負人の地位にあることが示唆されます。他方、労働者がコストを負担したとしても、それが資本的または起業家的性質を持つ投資であることの証拠とはならず、むしろ従業員の地位を示唆すると考えられるものの例には、(1) 特定の業務を行うために使用されるツール(手段・道具)や設備にかかるコスト、(2) 労力に関連するコスト、(3) 事業主が労働者に対して一方的に課すコスト、が含まれます。労働者が事業主と同種の投資を行っている場合は(たとえそれが小規模であっても)、その者は独立請負人の地位にあることが示唆されます。
- 労働関係の永続性の程度
労働関係が、期限の定めがない、継続的、または他の事業主のために仕事をすることを許さないものである場合は、その者は従業員の地位にあることが示唆されます。一方、労働関係が、期限の定めがある、他の事業主との仕事を許容する、プロジェクト・ベース、または労働者が自らビジネスを行っており、複数の事業体に労務・役務を提供していることに基づく散発的なものである場合は、独立請負人の地位にあることが示唆されます。
- 業務の遂行と労働関係に対するコントロールの性質と程度
この要素は、労働者の業務の遂行、および労働関係の経済的側面に、事業主のコントロール(留保された権利も含む。)が及ぶか否かを考慮します。すなわち、事業主が、労働者のスケジュールを設定し、業務の監督を行い、または労働者が他者のために働くことを明確に制限しているかどうか、事業主が、(装置や電子的手段による)技術的手段を使用して業務遂行を監督し、労働者を監督/懲戒する権利を留保し、または労働者が自ら望んで他者のために働こうとしたときにそれを妨げる要求/制限を労働者に課しているかどうかを考慮するのです。さらに、この要素は、事業主が、労働者が提供するサービスの料金や製品の価格、またはそれらのマーケティングなどを含む、労働関係の経済的側面をコントロールするか否かという点も考慮します。ただし、事業主が、特定の連邦法、州法または地域自治体の法律・規則を遵守するためだけに行動する場合には、労働者をコントロールしているとは見られません。
- 労働者が行う業務が事業主のビジネスにとって不可欠なものであるかどうか
この要素は、個々の労働者が事業主のビジネスにとって不可欠であるかということではなく、労働者が果たす機能がそのビジネスにとって不可欠であるか否かを考慮するものです。労働者が行う業務が事業主の主要ビジネスにとって重要、必要または中心的なものである場合、その労働者は従業員の地位にあることが示唆されます。反対に、その業務が事業主の主要ビジネスにとって重要でなく、必要でもなく、中心的なものでもない場合には、独立請負人の地位が示唆されます。
- 労働者の技能と主導権(イニシアティブ)
最後の要素は、労働者がその業務を行うために専門技能を用いているか、また、その技能が起業家的な主導権(イニシアティブ)に寄与しているかどうかを考慮します。労働者が専門技能を用いている場合は、その労働者は独立請負人の地位にあることが示唆され、他方、労働者が事業主のトレーニングに依存しているか、または、専門的な技能を用いていない場合は、その労働者は従業員の地位にあることが示唆されます。もっとも、労働者が労働関係に専門技能を用いたとしても、このこと自体が独立請負人の地位を示すものではありません。独立請負人だけではなく、従業員の地位にある者であっても、専門技能を持つことはあり得るからです。
本最終規則では、前述の6つの要素はそれぞれ等しく適用されるべきものであり、他の要素よりも重視されるべき要素はなく、1つの要素だけが分析の決め手となることもないと定められています。また、これらの要素は切り離して検討されるべきものでもありません。本最終規則は、場合によっては、いくつかの要素が他の要素よりも高い証明力を有する場合がある一方で、いくつかの要素が無関係である場合もあり得ることを明確にしています。DOLによれば、これらの6つの要素は例示列挙であり、状況によっては他の考慮事項が生じる可能性も存在するため、このアプローチは、現代経済の下でFLSAを適用する際に必要とされる柔軟性を与えてくれます。
規則案との比較
本最終規則は、2022年10月13日にDOLが発表した規則案をほぼ踏襲しています。本最終規則も規則案と同じ6つの要素を用いていますが、本最終規則の策定期間に受け取った55,000以上のコメントのレビューに基づき、いくつかの詳細事項が調整されました。規則案と本最終規則との間の主な変更点は以下の5つです。
- 法の遵守: 最も重要な変更は、「コントロールの性質と程度」という第4の要素に関するものです。規則案では、事業主が他の法律や規則を遵守させるために労働者をコントロールする場合は、依然としてその労働者は従業員であることが示唆される、とされていました。しかし、本最終規則は方針を転換し、特定の法的要件を遵守するために必要なコントロールは、必ずしもその労働者が従業員の地位にあることを示唆するものではないとしたのです。換言すれば、事業体は、労働者の分類に影響を与えることなく、連邦、州または地域自治体の法律・規則を順守するための措置を講じることができるということです。また、本最終規則は、事業主が、自らの便宜のために、労働者に特定の法的要件を超えた範囲のコントロールを及ぼす場合、かかるコントロールは労働者の地位の分析に影響を与えると規定しています。
- 相対的投資: 本最終規則は、さらに第2の要素の「相対的投資」にも修正を加えました。規則案は、DOLが労働者と事業主による絶対的投資を比較することを提案していました。たとえば、事業主が労働者よりも多額の投資をしている場合、労働者の地位は従業員となる可能性が高くなるとされていました。それに対して、本最終規則は、DOLは、1ドル単位の投資額の比較は行わず、事業主による投資の絶対的規模も考慮しないということを明確にしています。代わりに、労働者が自ら独立したビジネスを行っていることを示す類似した種類の投資を行っているか否かを判断するために、相対的な投資額を検討することになります。
- 工具と設備: 本最終規則は、工具と設備に関するDOLのアプローチを修正しています。規則案では、労働者がその業務の遂行に必要な工具と設備の代金を支払ったということだけを理由に、独立請負人と見られることはないと定めていました。たとえば、労働者が工具であるヘルメットとのこぎりを購入したとしても、そのような支払いをしたことを理由に、その労働者が独立請負人と見られることはありません。本最終規則は、この制限は、事業主が労働者に対して一方的に費用を課した場合にも適用されると説明しています。したがって、事業主が労働者に対して自費でヘルメットとのこぎりを購入するよう要求したとしても、このことによって労働者が独立請負人に分類されるわけではありません。
- 損益の機会: 本最終規則は、損益に関するDOLのアプローチの視点も修正しています。規則案は、労働者が、労働時間や仕事量を増やすことでしか稼ぎを増やすことができない場合、その労働者には起業家的な損益の機会は存在しないと述べていました。本最終規則は、この制限をより明確にし、1時間当たり、または職務ごとの料金が固定である場合、労働者がより多く働くことによって収入を増やすことができるとしても、それは起業家的な損益の機会とはいえないと述べています。
- 専門的な技能: 最後に、本最終規則は、第6の要素である専門技能に対するDOLのアプローチを制限し、専門技能を用いているという事実だけでは、労働者が独立請負人の地位にあることが示唆されるものではないと述べています。従業員と独立請負人のいずれもが専門技能を持った労働者であり得ることから、ビジネス上の主導権(イニシアティブ)に関連して専門技能を用いているか否かが、この要素の目的に最も関連するものなのです。
留意すべき重要点
DOLによれば、本最終規則の目的は、独立してビジネスを行っている個人と取引する事業主に対して一貫したアプローチを提供する一方で、従業員を誤って独立請負人に分類するリスクを減らすことです。
もっとも、実際に、本最終規則にそのような効果があるか否かは明らかではありません。連邦巡回区控訴裁判所の多くは、すでに独立請負人の地位を決定するための法的テストを確立しています。さらに、連邦最高裁判所は、今期、裁判所が特定の連邦政府機関の規制に相当の敬意を払う、「シェブロン法理(Chevron Doctrine)」の再検討を課されています。Relentless, Inc. 対 Department of Commerce事件(No. 22-1219) およびLoper Bright Enterprises 対 Raimondo事件(No. 22-451)における最高裁の最終判決では、本最終規則を執行するDOLの権限が大幅に制限される可能性があります。最終判決はまだ下されていませんが、DOLの審査官は、新たに適用される本最終規則を、監査およびその他の遵守措置での支配的な基準として扱うことができます。したがって、事業主は、既存および将来の労働関係や独立請負人と締結する契約条件を再検討し、必要な変更を行うべきです。
本最終規則は、労働者の分類に関するDOLの従業員寄りの見解を強めるものであり、独立請負人に依存している事業体、特にギグ・エコノミーの企業にとって、労働者の分類をより複雑なものにするおそれがあります。しかし、本最終規則は、あくまでFLSAにおける独立請負人の地位を定義したものであり、その他については述べていないことに留意することが重要です。最終規則が示す基準は、全国労働関係法(National Labor Relations Act)を含む他の連邦法、または賃金および労働時間に関する州法(あるいはこれらの法律の下で誤って独立請負人に分類されたと主張する訴訟)には適用されません。また、DOLが示す枠組みは、雇用差別法に基づく責任など、労働者の独立請負人としての地位が確定的となり得るような他の法的文脈における分析を支配するものでもありません。
本稿に関する質問や本最終規則が貴社の事業運営に与える影響について何かご質問がある場合は、ケヴィン・ボアザン弁護士(Kevin S. Borozan) 、または雇用/労働法/福利厚生部門のメンバーまでお問い合わせください。
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