概要
メキシコを拠点に勤務する従業員や販売代理人を通じてメキシコに製品を販売したり、または契約を取り付けたりする非メキシコ企業は、2020年1月1日から実施されたメキシコ租税法の改正によるメキシコ税の課税対象となり得ることにお気づきかもしれません。かかる租税法の改正により、メキシコ税務当局は、非メキシコ企業の会計帳簿を調査し、メキシコ以外の国で配分した利益に課税することができます。近年メキシコは、当地で業務に従事する販売担当者をバーチャル・メキシコ支店として扱い、当該販売担当者の雇用者である非メキシコ企業または主要契約先が課税対象とみなされるように、より積極的な措置で臨むようになりました。
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たとえば、米国会社、日系企業またはドイツ系企業(「外国製造業者」)が、メキシコ国外で機械や部品を製造し、それをメキシコの工場に販売するとします。外国製造会社は、メキシコで2名の販売担当者を雇い、自宅からまたは外回りで製品の販売に従事させています。かかる販売担当者は、外国製造会社以外のサプライヤーの販売業務は行っていません。彼らの全収入が外国製造会社から支払われていることから、彼らは、メキシコ租税条約用語による「従属代理人(dependent agents)」とみなされます。かかる従属代理人は、見込み客に、外国製造会社の存在を知らせ、同社の製品に関する情報を提供し、問い合わせに返答します。彼らは、メキシコには在庫品を置かず、価格交渉もせず、外国製造会社を拘束する契約を締結することもありません。
また別の例ですが、メキシコ以外の国に拠点を置く米国会社、日系企業またはドイツ系企業(「プロフェッショナル・サービス会社」)が、メキシコの顧客にエンジニアリング業務および他の技術サービスを提供しているとします。かかるサービス業務は、メキシコ国内で提供されるものもあればメキシコ国外で提供されるものもあります。プロフェッショナル・サービス会社は、メキシコで2名の販売担当者を雇っており、彼らは自宅からまたは外回りで顧客にサービス業務を売り込みます。彼らの全収入は、同社から支払われます。つまり、彼らはプロフェッショナル・サービス会社の従属代理人であり、見込み客に、同社の存在を知らせ、エンジニアリング業務と技術サービスに関する情報を提供し、問い合わせに返答します。彼らが実際に役務を行うことはなく、価格交渉もせず、プロフェッショナル・サービス会社を拘束する契約を締結することもありません。
メキシコ租税法が改正されるまでは、前述の2組の従属代理人が、メキシコで外国製造会社またはプロフェショナル・サービス会社の「恒久的施設(permanent establishment)」とみなされることはおそらくなかったでしょう。「恒久的施設」という言葉は、メキシコ法およびメキシコが締結する60の租税(所得税)条約で使われており、非メキシコ企業がメキシコで事業を行うためにメキシコに設置した一定の事業地、すなわち、非メキシコ事業体のメキシコ支店を意味します。以前は、非メキシコ企業は、同企業の販売担当者がメキシコで販売契約や業務契約を締結できないようにすることで、あるいは、他の具体的対策を講じることで、恒久的施設とみなされるのを回避できました。
特定の事実にもよりますが、近時メキシコ法が改正されたことで、次のような状況が頻繁に見られる場合、前述の従属代理人は、外国製造会社またはプロフェショナル・サービス会社がメキシコに置く恒久的施設とみなされる可能性があります。(i)外国製造会社やプロフェッショナル・サービス会社が、その従属代理人を通じて、メキシコの顧客に製品の販売または役務の提供を行っている。(ii) 従属代理人が、外国製造会社やプロフェッショナル・サービス会社とメキシコの顧客との間の契約が最終的に取り交わされるまでの過程で中心的役割を担っている。換言すれば、たとえ従属代理人が、実際に製品販売契約や役務提供契約を締結する当事者でなくても、非メキシコ企業がメキシコの顧客と契約を締結するまでの全体的なプロセスに照らして、従属代理人がメキシコで担う役割の重要性を考慮した結果、恒久的施設とみなされる可能性があります。
メキシコの顧客に商品の販売や役務の提供を行っている非メキシコ企業は、かかる販売や役務の提供に必要な契約を締結するまでの過程で、自社の従業員や従属代理人が中心的役割を担っているか否か判断すべきです。このような判断を行うためには、契約締結に要する全プロセスを、メキシコ国内外で行われる関連業務の重要性も含め調査し検討する必要があります。
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