概要
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックが、引き続き世界経済に多大な被害を及ぼしています。そのような状況で、破産手続の申請により債務救済措置を講じる米国会社の数が増えていることにお気づきかもしれません。この数カ月のうちに破産手続の申請をした企業には、J.C. Penney、Hertz、Gold’s Gymをはじめとして、最近ではChesapeake EnergyやBriggs & Strattonなど、多種の産業セクターに属する会社が含まれています。米国では、2020年後半に、COVID-19による倒産・破産件数が急増する傾向があり、そのような傾向は2021年に入ってもさらに続くことを予測しているビジネス・アナリストもいます。
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当増田・舟井法律事務所では、頻繁に破産手続を取り扱っています。弁護士は、債権者を代理し、契約上および法律上の利益と権利を保護し、債権者が支払を受領できるように支援しています。当事務所の弁護士は、複雑な破産手続および案件を取り扱った豊富な経験を有しており、過去10-15年間には、全国でも有数の債権者を代理してきました。本稿では、債権者/サプライヤーが破産手続に臨み、対処していく上で考慮すべき点を、いくつか挙げてみたいと思います。
自動停止/オートマティック・ステイ(Automatic Stay): 破産手続が開始されると、裁判所を通じてオートマティック・ステイと呼ばれる措置が実施されます。限定的な例外措置が取られることもありますが、このオートマティック・ステイにより、債権回収が停止されます。つまり債権者は、破産申請前の負債額に対して、債務者やその財産から債権回収を始めたり、または継続したりできなくなります。
輸送中の商品に対する支払の受領: 商品が現在輸送中である場合、債権者は、主要ベンダー(業者)(critical vendor status)の地位(後述参照)を確定してもらうために商品の引き渡しを停止したり、または少なくとも商品の前払いを要求することができます。したがって、貴社の取引業者が破産手続申請をしたという情報が入り次第、積荷受取証(shipment receipts)、輸送証券(bills of lading)および社内の記録を速やかに確認し、債務者宛てに発送され、輸送中の商品があるか、または出荷が停止された場合はそれが合法的な停止であったかを判断することが重要です。
取戻し(請求)の通知(Reclamation Notice): 管財人(管財費用)の債権(administrative claims)は、一般的無担保債権(unsecured claims)とは異なり、通常、全額弁済されます。破産申請前の45日以内に出荷した商品について即時に取戻し請求を行うことで、場合によっては、当該商品に対する無担保債権を管財費用債権に変更できます。そのためには、取戻し通知を行うタイミングが重要となります。
信用販売: サプライヤーが、債務者との間に拘束力のある未履行契約(executory contract)(後述参照)を締結せずに、債務者にオープン・アカウント(open account)で販売する場合は、契約に基づいて事業取引を継続する義務はないため、同債務者との取引を停止するか、または望む場合は、債務者と新たな販売条件について交渉することも可能です。債権者は、たとえば現金前払いなど、債権者にとってより有利な支払条件を得られる可能性があります。
未履行契約(Executory Contracts): サプライヤーと債務者(取引業者)との間の契約により定められた重大な義務のうち、破産が申請された時点で、両当事者がまだ履行していない債務がある場合、債務者は、そのサプライヤーに対する債務を引き続き履行するか、あるいは履行を拒否するかの選択権を行使することができます。サプライヤー(債権者)と取引業者(債務者)の間で考慮すべき未履行契約が、実際に存在するか否かを知るために、両当事者間の関係を規定する契約書および文書をすべて注意深く精査する必要があります。未履行契約は、債務者がそれにどのように対処しても、債権者であるサプライヤーにとっては、利益にも負担にもなり得るため、よく理解しておく必要があります。債務者が債務履行を継続しても、または拒否(契約解除)しても、いずれの場合も、その手続きには時間がかかる可能性があります。しかし、サプライヤーは、破産(倒産)裁判所に申立てを行い、債務者に対して最終的な拘束力のある決定を促すように要請することができます。
主要ベンダー(業者)/絶対不可欠なサプライヤー(としての法的地位)とは(Critical Vendor/Essential Supplier Status): このような地位が確定されると、多くの場合、破産申請前の債務者に対する債権の弁済を全額または大部分受けることができるでしょう。この地位は、裁判所命令により確定されますが、そのような地位が確定されることで、サプライヤーが今後も債務者と取引を継続することがサプライヤーのビジネスにとって極めて重要であるため、債務者との取引を継続しなければならず、サプライヤーは債権の弁済を受けなければならないことを裁判所に示すことになります。主要ベンダーの地位を得ることは、破産申請前の債権の弁済を受けるために、破産申請後に目指すべき究極の目標とみなされることがよくありますが、確固とした決意と強硬な姿勢で交渉に臨むことなく、そのような地位を取得することは容易ではないでしょう。
担保物件の差し押さえ/担保価値の減価償却費の支払: 債権者が債務者に対して担保付販売をしており、債務者が破産手続中に、債権者に対する支払を拒否しているにも拘わらず、担保物件を使用し続けている場合、債権者は、破産裁判所に申し立て、同担保物件の継続的使用について債務者に強制的に支払わせるか、または担保物件を債権者に強制的に返還させることが可能です。このような措置を取るには、オートマティック・ステイを解除する必要があり、相当の時間を要することがあります。
破産申請後20日以内に発送された商品: 倒産(破産)法第503条(b)項(9)号に基づき、債権者は、債務者が破産申請前の20日以内に受け取った商品に対して、管財費用優先債権(administrative priority claim)を有します。本債権を取得するには、債権者は、裁判所の指示に従い、本条項に基づき適時に債権を請求しなければならず、それを怠る場合は、本請求の完全な無効・取消原因とみなされます。
破産債権証明/債権届出(Proof of Claim): 無担保債権者に対する配当金は、破産財団(bankruptcy estate)によって比例計算に基づき支払われますが、債権者がそのような配当を受ける権利を留保するには、適時に債権証明(届出)をしなければならないことがあります。前述と同様に、義務づけられた適切な債権証明を怠る場合は、無担保債権者に対する配当支払に関する完全な無効・取引原因とみなされます。
偏頗(優先的)弁済の請求(Preference Claims): 債務者の破産管財人が、破産手続が開始されるまで(前)の90日以内に債権者に優先的に返済された金額を債務者に払戻すことを要求して、債権者を訴えることがよくあります。そのような優先的弁済に関する請求で争うために、倒産(破産)法の下で債権者が講じることができる特定の防御手段があります。そして、債務者とのビジネス取引において何か懸念すべき問題が浮上してきた場合は、そのような状況は、実際に破産手続が開始されるかなり前に生じることが少なくありませんが、直ちに、この偏頗(優先的)弁済の概念を把握しておくことが重要です。さらに、正確な記録管理も不可欠です。
本稿は、破産申請手続において、貴社にとって実施可能なすべての事柄、行使可能なすべての権利および全救済手段について記載したものではないことをご留意ください。また、クライアントの皆様に簡略で役立つ情報を提供するために作成されたものであり、法律相談に代わるものではありません。特定の破産申請手続についてさらに情報をご希望の場合、破産申請をしている取引先企業やその取引について何かご質問がある場合、または貴社の権利や請求を保護するための手段などについてアドバイスをお望みの場合は、倒産・破産問題/債権者の権利に関して豊富な経験を有している当事務所弁護士のゲーリー・ヴィスト、ラインホールド・クレイマーまたは貴社の担当弁護士までご連絡ください。
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