2021年7月9日、ニューヨーク市で新たなバイオメトリクス・プライバシー法(以下、「本法」といいます。)が施行され、これにより顧客の生体認証情報に対する保護が強化されました。本法では、「生体認証情報(Biometric identifier information)」は、個人を識別するために使用される可能性のある「生理学的または生物学的特徴」と定義されています。[1]
生体認証情報には、網膜もしくはアイリス(虹彩)スキャン、指紋もしくは声紋または顔もしくは手のスキャンが含まれますが、これらに限られません。
本法は、次の3つの重要な構成要素から成ります。
第一に、ニューヨーク市の商業施設は、同施設で顧客の生体情報を収集、取得、保存または共有している場合には、その旨を公に通知しなければなりません[2]。
「商業施設(Commercial establishment)」の定義には、飲食物の販売・サービス施設、娯楽施設(劇場、スタジアム、博物館、公園その他のアトラクションなど)および小売店が含まれます。本法の影響を受けるニューヨーク市の事業体は、顧客の生体情報を収集・取得・共有することについて「当該商業施設のすべての入口付近の目につく場所に、わかりやすい簡潔な言葉でその旨を掲示する」ことにより、本法により要求される公の通知を行うことができます。
第二に、上記の通知を条件として顧客の生体認証情報を使用することはできるものの、本法は、事業体が顧客の生体認証情報を販売することその他顧客の生体認証情報の共有により利益を得ることを禁止しています[3]。
最後に、各顧客は、商業施設により本法への違反について私的訴権を有し、これを理由として同施設に対し訴訟を提起することができます[4] 。訴訟を提起する被害者は、まず、訴訟を提起する30日以上前に、事業体に対し、主張を記載した書面により通知を行わなければなりません。それにも拘わらず、事業体が違反の是正を怠る場合、勝訴した被害者は、次のような損害賠償を受けることができます。
- 事業体が公の通知を怠った場合、各違反につき500ドルの損害賠償
- 過失による顧客の生体認証情報の不法な販売または共有の場合、各違反につき500ドルの損害賠償
- 故意または未必の故意(recklessness)による顧客の生体認証情報の不法な販売または共有の場合、各違反につき5,000ドルの損害賠償、
- 合理的な弁護士報酬および費用(専門家証人の報酬その他の訴訟費用を含む)
- 差止命令を含む他の救済
顔認識や指紋スキャニング技術など、顧客の生体認証情報およびデータを利用するニューヨーク市の事業体は、急速に進化するバイオメトリクス・プライバシー法規を確実に遵守し潜在的な賠償責任を限定するために、コンプライアンスにかかるプログラムまたは計画を策定するための措置を講じるべきです。
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