概要
2021年11月30日、米国司法省(以下「司法省」といいます)が雇用主による賃金固定協定に関して起訴した初めての刑事事件で、テキサス州連邦裁判所は、本件のような刑事訴追が認められた判例はないと主張する被告人らの却下申立てを否認しました。司法省は、理学療法士派遣会社の元オーナーと同社の元取締役がダラス・フォートワース地域の理学療法士に支払われる賃金を固定するスキームを通じて、連邦独占禁止法に違反したとして、両当事者を起訴しました。被告人らは、賃金固定行為が違法とみなされるという「公正な警告」を受けていなかったことを理由に、司法省による起訴は被告らの憲法上の権利を侵害するものであると主張しました。裁判所は、司法省の主張するスキームが証明されれば、それは長年にわたり独占禁止法上の違反とされてきた価格協定を構成することになると判示して、かかる却下申立てを否認する命令と意見を出しました。2022年4月には、本事件のトライアル(trial)が開始される予定です。
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司法省によるこれまでの報告および上述のテキサス州の訴訟事件からもわかるように、司法省は、競業相手と従業員の「賃金固定」や「引抜禁止」の協定を締結した雇用主に対して、独占禁止法の下で刑事訴追を行うとの警告どおり訴追を進めています。本来、「賃金固定」および「引抜禁止」の協定とは、前者が、雇用主が競業相手との間で従業員の給与または他の報酬条件を固定する合意を結ぶこと意味し、後者が、雇用主が競業相手との間で従業員の勧誘や雇用(採用)をしない合意を結ぶことを意味します。司法省と連邦取引委員会(以下「FTC」といいます)が2016年10月に「人事(HR)プロフェッショナル」を対象として公表した「独占禁止ガイダンス」に記載されているとおり、一般的に、会社がその競業相手と、従業員の採用、報酬または他の雇用条件などに関して協定を締結することは禁止されています。2021年7月9日、バイデン大統領は、雇用市場を含め「独占禁止法の執行を強化すること」を司法省とFTCに呼びかける行政命令を出しました。独占禁止法上の刑事訴追により違反が認められた場合、企業に対して1億ドル以上の罰金が科され、個人に対しては、罰金や懲役刑が科される可能性があります。
賃金固定に関する前述の事件以外にも、2021年の初め、司法省は、医療業界の競業会社同士が業界内の競争を抑えるために、互いに従業員の勧誘・採用を禁止する内容の違法な引抜禁止協定を締結したと主張して、刑法違反に基づき起訴しました。これが司法省が引抜禁止協定に関して起訴した最初の2件です。また、2021年にも賃金固定に関する刑法違反を理由として、2度目の起訴をしました。それらの事件でも、被告人らは、これまでに刑事訴追が認められた判例はないと主張しました。テキサス州で賃金固定に関して却下申立てが否認された最近の判決でも示唆されるとおり、裁判所はこのような刑事訴追を認める傾向にあります。
2021年には、シカゴの連邦裁判所でも、刑法上の引抜禁止違反を理由に起訴された被告人に対して民事責任を追及するクラスアクションが提起されたようです。この分野で最近提起された民事訴訟事件では、数億ドル規模の和解が成立しています。
司法省がこの分野に一層注目していることから、雇用者は、競業相手との間で、従業員の雇用や報酬支払実務を取り扱う際には、刑事上および民事上の明白なリスクを踏まえ、引き続き十分な注意を払う必要があります。すべての勧誘禁止の合意が違法というわけではありませんが、競業相手とのコミュニケーションや合意内容について、法的な影響があるか否か、または最近の判決や訴訟事件について懸念点がある場合は、迅速に弁護士に連絡し、自分自身と所属する会社が常に法律を遵守していることを明確にしておく必要があります。
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