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全米労働関係委員会(NLRB)、退職(離職)合意書で 秘密保持条項および誹謗中傷行為禁止条項の記載を禁ずる

6.27.23

概要

2023年2月21日、全米労働関係委員会(以下「NLRB」といいます)は、退職(離職)合意書 (severance agreement)(以下「退職合意(書)」といいます)に含まれる秘密保持条項および誹謗中傷行為禁止条項は、(従業員同士の)共同行為を可能とする従業員の保護された権利を違法に侵害するとの裁定を出しました(McLaren Macomb, 372 NLRB No.58 (2023) )。NLRBは、かかる条項は、従業員が賃金、労働時間、他の雇用条件について発言する権利を制限すると結論づけました。本McLaren Macomb事件の裁定についてNLRBには多くの問い合わせが寄せられましたが、2023年3月22日、NLRB事務総長は、本裁定の解釈のガイダンスとなるMemorandum GC 23-05(以下「本覚書」といいます)を発表しました。

McLaren Macomb事件の裁定

McLaren Macomb事件の裁定(以下McLaren Macomb事件を「本事件」、同裁定を「本裁定」といいます)によると、雇用主が、従業員の「法的権利を喪失させる」ことを条件に従業員に手当を支払う旨の退職合意書を「単に差し出す」だけでも、全米労働関係法(NLRA)第8(a)(1)条の違反となります。NLRBは、本裁定にあたり、Baylor University Medical Center事件およびIGT(International Game Technology)事件における2つの先例を覆しました。従前は、これらの2つの先例に基づき、雇用主は、退職合意書に秘密保持条項および誹謗中傷行為禁止条項を含めることが可能でした。しかし、本裁定により、NLRBは、全米労働関係法に基づく退職合意書の分析において、同合意書に含まれる制限に関する文言に焦点を当てた2020年以前の判断基準に戻したことになります。

本事件では、ミシガン州の労働組合を有するMcLaren Macomb教育病院で11人の労働組合員(従業員)が解雇されました。同病院は、解雇された各従業員に退職合意書、権利放棄および一般免責合意書を提示しました。これらの合意書には、開示禁止(non-disclosure)および秘密保持(confidentiality)条項が含まれていましたが、保護された活動(Protected Activity)行うことを可能とするカーブアウト(carve-out)(例外)条項は記載されていませんでした。

「秘密保持(Confidentiality)」条項には、従業員が「[退職合意]の条件が機密であることを認識していること、および配偶者または(必要な場合は)弁護士もしくは税務専門家に対して開示する場合あるいは法律もしくは行政命令により開示する場合を除き、かかる条件を第三者に開示しないことに同意する」ことが定められていました。また、「開示禁止(Non-Disclosure)」条項には、従業員が雇用を通じて知り得た「機密の、特定の人だけが知る、または専有される情報・知識・資料を開示しないことを約束し、同意する」ことが定められていました。

さらに、本合意書には、誹謗中傷行為禁止に関する条件も含まれており、解雇された従業員は、他の従業員や一般の人々に対して、雇用主である病院、その親会社・関連会社・役員・取締役・従業員・代理人および代表者の名誉を傷つけたり、または評判を下げたりする発言や記述をしないことに合意することが義務づけられていました。最後に、従業員が本合意に違反した場合、雇用主は、(NLRBがいうところの)「金銭的および差止命令による実質的な制裁」を追求する権利を有すると定められていました。

これらの条項はこれまでの先例に照らし合わせても比較的標準的な退職合意の条件に関するものでしたが、NLRBは、本件の秘密保持条項および誹謗中傷行為禁止条項は違法であると判断しました。そして、McLaren Macomb病院に対し、当該条項を含む退職合意書を従業員に提示しないよう、「停止命令(cease and desist)」を出しました。

NLRBは、「退職合意書の条件により、全米労働関係法(NLRA)第7条に基づく従業員の権利の行使が妨害・制限・強制される傾向にあると合理的にいえる場合、かかる条件は違法である」と判断しました。特に、誹謗中傷行為禁止条項に関して、NLRBは、「従業員が職場に関して公に発言する行為は、本法における従業員の権利行使の要である」ため、同条項は、第7条の下で従業員に与えられた権利を侵害することになると判示しています。さらにNLRBは、「かかる条項の適用が、病院との過去の雇用に関する事項に限定されておらず」、最終的には「あらゆる労働問題、紛争および病院の雇用条件に関する従業員の行為にも及ぶものである」と指摘し、かかる誹謗中傷行為禁止条項が広範であると異議を唱えました。また、同条項は、時間的制限も定めず、病院だけでなく、その親会社、関連会社、役員、取締役、従業員、代理人、代表者にも適用されることも指摘しました。

NLRBは、従業員が同合意書の条件を「いかなる第三者」に開示することを禁じているため、同様に、秘密保持条項についても過度に広範であると判断しました。このような条項は、「同合意書に違法な条項が含まれていたとしても、従業員に対してそれさえ開示することを禁じている」ことから、従業員が不当な労働行為に関する請求をしたり、あるいはNLRBの調査に協力したりする際の妨げとなり得ると判断しました。さらに、NLRBは、かかる秘密保持条項は、従業員が、労働組合代表者または同様の合意書を受け取った可能性のある他の従業員らを含む他者とともに、退職合意書の存在または条件について話し合うことを実際には禁止することになると判示しました。

事務総長(Office of the General Counsel)の覚書

2023年3月22日、NLRB事務総長のJennifer A. Abruzzoは、本事件の射程と今後の影響に関するガイダンスを示して多数の問い合わせに応えるよう、覚書を発行しました。本ガイダンスは、特にNLRBの各地方支部が、「本事件の影響について、労働者、雇用主、労働組合、一般市民から」問い合わせを受けた際に対応するためのものです。本覚書は、NLRBが退職合意に関してどのように判断を下すのか理解するためにも役立ちます。

本覚書の主要な点は、以下のとおりです。

■ 本裁定は、裁定日である2023年2月21日以前に署名された退職合意書に遡及的に適用されます。全米労働関係法 は 6 ヶ月の時効を定めていますが、退職合意の履行が「継続的な違反」であると判断された場合、違反は時効の対象とされないため、かかる時効は実質的に停止される可能性があります。そのため、本裁定により、元従業員も現従業員と同様に全米労働関係法に基づく保護を受ける権利があることになります。

■ 雇用主は、違法な退職合意書を従業員に単に提示するだけで、全米労働関係法に違反する可能性があり、従業員が同合意書に署名するか否か、またはかかる条件に同意するか否かは関係ありません。

■ たとえ従業員から、退職合意書に広範な内容の秘密保持条項および/または誹謗中傷行為禁止条項を要求、または承認したとしても、本裁定によれば違法と考えられます。

■ 免責条項または「保留条項(savings clause)(=従業員の保護された権利を制限・排除するようにみえる合意書であっても、そのような意図はなく、保護された権利が制限・排除されることはないことを明記する条項)」を含めることにより、不明確・曖昧な条件の救済にはなり得るかもしれませんが、必ずしも過度に広範な秘密保持条項および/または誹謗中傷行為禁止条項が適法になるわけではありません。

■ 全米労働関係法上「監督者(supervisors)」は適用対象ではありませんが、雇用主が不当な労働行為をすることを拒否した監督者に報復するなどの限られた状況では、監督者も本裁定の適用対象となる可能性があります。かかる例外は、Parker-Robb Chevrolet事件によりすでに有効となっていたため、本事件では取り上げられませんでした。

■ 本裁定は、雇用主と従業員間の他の種類の契約、オファーレターや雇用前にやり取りされた書面等のコミュニケーションにも適用される可能性があります。

■ さらに、本裁定は、競業避止条項、勧誘禁止条項、引抜禁止条項、広範な免責条項および雇用後の協力要件を無効化する場面でも適用され得ます。

■ 本裁定によっても、唯一合法とされ得る秘密保持条項は、合法的ビジネス上の理由に基づき、特定期間、専有情報または営業秘密情報の流布を制限するために狭い範囲で定められたものです(すなわち、多くの場合は、時間的範囲が限定されていない秘密保持条項には拘束力がありません)。

■ 本事件に基づき、唯一合法的とみなされる可能性がある誹謗中傷行為禁止条項は、従業員が雇用主に対して非合法的とみなされる中傷的発言をした場合に適用されるような狭義に定められたものです。

McLaren Macomb事件に関して、連邦裁判所が最終的にどのような判断を下すかは、現時点ではまだわかりません。したがって、連邦裁判所がこれらの問題について今後さらなる方向性を示す可能性があり、本覚書のガイダンスを支持するかしないかは、定かではありません。多くの従業員には退職(離職)手当を受領する権利がないことを考慮すると、退職手当の支給と引き換えに、従業員に対して条件の提示を可能にすることは、雇用主がかかる合意を結ぶ上で基本的原則と考えられていることは確かです。本裁定にかかわらず、雇用主は、監督者(supervisor)との間で退職合意を交わす際には、多くの場合、同合意書の中に秘密保持条項および誹謗中傷行為禁止条項を引き続き含めることが可能です。しかし、従業員が監督者でない場合、雇用主は、当該従業員のために退職合意書を作成する際には注意を払い、NLRB事務総局から新たな通知が発行されるまでは、本稿にて取り上げた本覚書の内容に留意する必要があります。

本件に関して何かご質問がございましたら、ノーリーン・アムジャッド弁護士(NAmjad@MasudaFunai.com)または雇用/労働法/福利厚生部門のメンバーまでお問い合わせください

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