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米国外での特許権侵害に対する損害賠償請求の可能性

6.27.24
関連業務分野 訴訟

多国籍企業は注意が必要です。最近、米国連邦巡回区控訴裁判所 (Court of Appeals for the Federal Circuit) が、Brumfield v. IBG LLC  (97 F.4th 854 (Fed. Cir. 2024)) 事件 (以下「Brumfield事件」といいます) の判決を下し、米国の特許権者が、米国内で発生した特許権侵害について、米国外での販売行為のみに基づく損害賠償を求める道を開きました。

2018年以前は、米国の特許権侵害訴訟において、原告は、被告の米国外での販売行為のみを理由とする損害賠償を求めることはできない、という理解が確立されていました。米国連邦巡回区裁判所 (Federal Circuit) は、2013年に下したPower Integrations, Inc. v. Fairchild Semiconductor International, Inc. (711 F.3d 1348, 1370-71 (Fed. Cir. 2013)) 事件 (以下「Power Integrations事件」といいます) の判決の中で、米国特許法は、米国外での特許権侵害を禁止するために適用されるものでないことは自明の理であり、被告が米国外で行った特許発明の利用は、特許権侵害には該当せず、そのためそれに対する補償もあり得ない、と述べました。

しかし、2018年、米国最高裁判所 (Supreme Court of the United States) は、WesternGeco LLC v. ION Geophysical Corp. (585 U.S. 407 (2018)) 事件 (以下「WesternGeco事件」といいます) の判決の中で、合衆国法典第35編第271条(f)(2)に基づく特許権侵害の事例を取り上げつつ、特許権者は、米国外での逸失利益と相当の因果関係がある特許権侵害について損害賠償を求めることができる、と判示しました。同第271条(f)(2) は、特許発明の構成部品を米国内で、あるいは米国から供給する場合に、当該人物がそのことを知り、かつ、その構成部品を、米国内で組み立てた場合には米国特許権を侵害するような方法で、米国外で組み立てることを意図して行う特定のタイプの侵害を禁止しています。

WesternGeco事件と異なり、今回のBrumfield事件における争点は、特許発明の製造、使用、販売、販売の申し出、または輸入を禁止する、合衆国法典第35編第271条(a) に基づく侵害と、合理的なロイヤルティの賠償(Brumfield事件においては逸失利益の賠償。)に関連するものでした。しかし、Brumfield事件において米国連邦巡回裁判所は、WesternGeco事件における米国最高裁判所の理由付けは、同第271条(a)に基づく侵害にも同様に適用され、また、逸失利益と同じく合理的なロイヤルティの損害賠償にも適用されると判断しました。その際、Brumfield事件の裁判所は、WesternGeco事件の判決は、Power Integrations事件の判決よりも優先され、また、米国外での行為に基づく損害賠償が適切に認められるか否かの判断は、WesternGeco事件の判決の枠組みによって判断されるべきであると明示的に述べました。

Brumfield事件の判決の下では、被告が米国内で特許発明を製造、使用、販売、販売の申し出、または輸入をしたことにより、特許権者の米国外での販売について損害が発生した場合、特許権者はそれについて賠償を請求することができるようになりました。Brumfield事件の判決は、米国外で行われた行為に基づく損害賠償の請求に必要な因果関係の定義と範囲という重要な論点について判断を留保していますが、同判決が、米国内で事業を行う外国企業にとって広く関係する重要な先例となったことは明らかです。米国内での特許権侵害と米国外での販売行為との間の因果関係の範囲を検討し、定義づけることは、今後の判例に委ねられています。

その一方で、Brumfield事件の判決は、被告の米国外での活動に関する証拠開示(ディスカバリー)の紛争を増やし、より複雑で斬新な損害賠償の理論を促進し、より多くの不実施実体(Non-Practicing Entity)の活動を助長し、そして最終的には、米国内で事業を行う多国籍企業にとって、米国で発生した特許侵害に対する潜在的な責任を増加させるものと考えられます。

外国企業は、今、米国特許権を侵害する行為は国境を越えて法的な影響を及ぼす可能性があるということを強く認識しなければなりません。Brumfield事件の判決は、米国市場への参入・拡大を目指す多国籍企業にとって、総合的・包括的な法律相談と戦略的な計画策定の必要性、および、法的リスクを軽減し、潜在的な責任から身を守るための事前対策の重要性を強調しています。

Brumfield事件の判決に関し、または、それが貴社のビジネスにどのように適用される可能性があるのかについてご質問がございましたら、増田・舟井法律事務所または、訴訟チームの弁護士にお問合せください。

増田・舟井法律事務所は、米国でビジネスを展開する日本企業の代理を主な業務とする総合法律事務所です。
当事務所は、シカゴデトロイトロサンゼルス、およびシャンバーグに拠点を有しています。

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