概要
- 2024年8月初旬、イリノイ州知事J.B.プリツカーは、イリノイ州人権法(IHRA: Illinois Human Rights Act)に基づく従業員の権利の範囲を実質的に拡大する4つの法案に署名しました。中でも注目すべき点は、雇用差別、ハラスメント、報復を理由としてイリノイ人権省(IDHR: Illinois Department of Human Rights)への申立ての時効期間が、300日から2年に延長されたという点です。
- Protected Classes(雇用差別などから保護されるべき属性を持つグループ)に関する改正事項として、「リプロダクティブ・ヘルス(reproductive health)に関する決定」および「家族的責任」という2つのカテゴリーを新たに追加することにより、IHRAの下で保護されるべきグループのリストがさらに拡張されます。
- 最後の改正事項として、雇用主は、採用および雇用の決定時に人口知能(AI)ツールを使用して差別することが禁止されます。
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違反行為に関する申立期間の延長
2025年1月1日から、従業員がIHRAに基づき、IDHRに職場差別、ハラスメントまたは報復について申立てができる期間が、300日から2年に延長されます。雇用主が1人の従業員しか雇っていない場合でも、IHRAはイリノイ州の全雇用主に適用されます。本改正法が施行されることで、イリノイ州は、最長の時効期間を採用している少数の州グループに含まれることになり、現在雇用されるまたは以前雇用されていた従業員は、かかる時効期間内に、雇用差別に関する申立てを行うことができます。
それとは対照的に、15人以上の従業員の雇用主だけに適用される公民権法第7編(タイトル・セブン)に基づく連邦レベルの請求は、300日以内に雇用機会均等委員会(EEOC)に対して提出されなければなりません。新たに施行されるIHRA改正法に基づき、タイトル・セブンに基づく請求の時効期間が過ぎてしまった従業員、または従業員数が15人未満の雇用主に雇用されている従業員は、依然としてIHRAに基づく申立てを求める選択肢を有します。
新たなProtected Classes(雇用差別などから保護されるべき属性を持つグループ)
- 家族的責任
イリノイ州の雇用主は、2025年1月1日から、「家族的責任(family responsibilities)」に基づき、従業員または応募者に対して不利益な措置を講じることができなくなります。この家族的責任とは、子供、配偶者、家庭内パートナー(domestic partner)、親または他の近親者のための医療、衛生、栄養、安全、または情緒的支援の必要性を満たすことを含む、家族による実際のまたは認識されたケアと定義されます。ただし、雇用主は、IHRAを遵守している限り、現行の就業規則(company policies)を変更する必要はなく、家族的責任を有する従業員に対して休暇、出勤および業務遂行に関する合理的な規則を適用することができます。
- リプロダクティブ・ヘルスに関する決定
イリノイ州の雇用主は、2025年1月1日から、実際のまたは認識されたリプロダクティブ・ヘルスに関する決定(不妊治療、避妊、妊娠、中絶、および関連する医療上の決定に関する選択を含みます)に基づき、従業員を差別することが禁止されます。本条項により、プロチョイスあるいはプロライフの支持を理由とする差別も含め、現行のIHRAの保護が拡大されます。
雇用主に対するAI利用の禁止
2026年1月1日から、IHRAは雇用主に対して、従業員の採用および雇用を決定する際にAIを利用して雇用差別をすることを禁じます。本改正法に基づき、採用、雇用、昇進、再雇用、訓練の選択、解雇、懲戒、在職期間、その他の雇用関連事項の決定プロセスでAIが利用されている場合、雇用主は、その旨を従業員および応募者に通知しなければなりません。また雇用主は、プロキシサーバーで、保護された属性を持つグループの郵便番号を検索することも禁止されています。この要件は、AIアルゴリズムによって、マイノリティ人口が集中している地理的区域から応募者が排除されることを防ぐことを目的としたものです。
本稿について何かご質問がある場合は、ノーリーン・アムジャッド弁護士(Naureen Amjad)、パトリック・ケリー弁護士(Patrick M. Kelly)または雇用/労働法/福利厚生部門のメンバーまでお問い合わせください。
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