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ニュース&イベント: クライアント・アドバイザリー

米連邦取引委員会(FTC)による垂直型M&Aへの姿勢の変化: デジタル・スタートアップ企業は影響を受けるか?

7.19.22

概要

米国内外の反トラスト法執行機関は、従来、垂直型M&Aに対しては比較的寛大な姿勢をとっていましたが、米国当局による最近の措置は、この姿勢が変わりつつあることを示唆しています。「垂直統合」とは、サプライヤーまたはプロバイダーと顧客との間の合併のことをいいます。昨年、米連邦取引委員会(FTC)は垂直合併ガイドラインを撤回し、垂直統合に対する取締りを強化し始めました。この姿勢の変化により、過去には何の異議もなく、あるいはほとんど異議なく終了したであろうある種の取引が不確実なものとなっています。この新しいアプローチは、デジタル・プラットフォーム市場におけるスタートアップ企業の買収との関係で特に重要であると思われます。

垂直合併ガイドラインの撤回について

20219月、FTCLina M. Kahn委員長、Rohit Chopra委員、Rebecca Kelly Slaughter委員は、2020年に出されたばかりのFTCの垂直合併ガイドラインを撤回する声明を発表しました。声明では、クレイトン法(the Clayton Actが、商取引やそれに影響を与える活動において競争を実質的に制限する「可能性がある」合併や買収を禁止しているという同庁の見解が強調されました。さらに、FTCは、審査のアプローチを拡大して、市場構造に基づいて競争を実質的に制限する「可能性がある」合併や買収かどうかを審査すると発表しました。すなわち、これにより、特定の慣行や特性を違法なものと推定したり、過去の救済慣行を評価されることとなり、また、労働市場への悪影響を加味するなど、垂直統合によりもたらされる潜在的な損害の捉え方が拡大されることになりました。  

新しい損害理論に基づく垂直統合に対する最近のFTCの対抗

Lockheed-Aerojet

米国の航空宇宙、兵器、防衛、情報セキュリティおよび技術製造会社であるLockheed Martin Corporation(以下「Lockheed」)は、米国のロケットおよびミサイル推進装置サプライヤーであるAerojet Rocketdyne Holdings Inc(以下「Aerojet」)を44億ドルで買収することを提案していました。Aerojetのミサイル推進装置はLockheedや他の防衛会社が製造するミサイルに使用されています。FTCはこの取引に異議を唱え、Lockheedの競合他社や推進装置メーカーが市場に参入するために必要な重要部品をLockheedが支配することになるため、競争を制限することになると主張しました。さらにFTCは、 AerojetがサプライヤーとしてLockheedの競合他社に関する競争上重要な情報を保有しており、この取引によってLockheedがそうした情報にアクセスできるようになると主張しました。ミサイルメーカーのRaytheon Technologiesは、このFTCの対抗に賛同していました。

これに対し、LockheedとAerojetは救済策を提示し、具体的には、Aerojetが他のすべての大型防衛プライムコントラクターと平等に業務を継続できるよう、ファイアウォールを構築することを提案しました。この方法は、2018年夏にNorthrop GrummanによるOrbital ATKの買収を認めるために講じられた救済措置と同様でした。しかし、FTCはLockheedとAerojetが提案した救済策を拒否し、取引の差し止めを求めて提訴しました。その直後、Lockheedは訴訟において防御活動を行わないことを選択し、合併契約を解除しました。

NVIDIA-Arm

半導体チップのサプライヤーであるNVIDIA Corporation(以下「NVIDIA」)は、英国のチップ設計会社Arm, Ltd.(以下「Arm」)の買収を模索していました。NVIDIAは、Armを、400億ドルの取引で買収しようとしましたが、これは半導体業界において史上最大規模の合併の1つとなるであろうものでした。FTCは、この取引によってNVIDIAがArmの設計した重要な技術を支配することになり、生産が制限され、NVIDIAの事業利益と対立する企業に対して、Armの革新的技術のライセンス供与ができなくなると主張して、この取引の阻止を訴えました。  さらにFTCは、この合併によりArmのライセンシー(その多くはNVIDIAのライバル)の競争上重要な情報がNVIDIAに提供されることになると主張しました。

FTCの懸念に対処するため、NVIDIAとArmは、最終的にはNVIDIAが支配するものの、Armのライセンス事業を独立した事業体としてスピンオフさせることを提案しました。しかし、FTCはこの救済策を拒否し、NVIDIAとArmは買収計画を打ち切りました。

どちらのケースも、FTCが、従来の経済分析に加え、新たな損害理論に基づいて垂直合併に対抗していることを示しています。特に、FTCは、競合他社の競争力および市場関与能力に対する潜在的な損害に焦点を当てているようです。さらに、どちらのケースも超党派の合意を得ており、M&A取引に対する監視の目が政権を超えて強化される新時代を予感させます。

重要なポイント

非水平合併に対するFTCのアプローチは明らかに変化しています。この変化は、デジタル・プラットフォーム市場や同市場におけるスタートアップ企業の買収において特に重要であると思われます。従来の経済分析、すなわち価格低下や効率性といった消費者への競争上の利益の重視から一歩踏み出し、FTCは、垂直統合の審査にあたって、(FTCがNVDIA-Armのケースで考慮したように)、当該買収によって、買収されたスタートアップ企業が有する革新的技術の競合他社への供与が阻止される可能性があるかどうかや、買収元およびその関係企業に特定のアルゴリズムを利用して操作する優位性を与えるかどうか等、価格以外の側面も強調するものと思われます。さらに、過去には許容されていたであろうセーフガードは、もはや十分ではないかもしれません。

最後に、FTCは、デジタル・プラットフォームが大きなネットワーク外部性を特徴(すなわち、サービスの価値が利用者数に依存している)とする一方で、デジタル・プラットフォーム市場における多くの買収が通常1976年ハート・スコット・ロディーノ反トラスト改正法が定める閾値(HSR(Hart-Scott-Rodino))(*同法が定める取引規模の閾値を下回る合併等については、FTCや米国司法省反トラスト局(DOJ)に対する取引完了前の通知は不要とされています。)を下回り、報告されないことを認識しているようです。FTCが垂直合併ガイドラインをどのように改訂するかはまだ不明ですが、垂直合併に対する監視の目が厳しくなることは予想されます。

ご質問は、コーポレート/ファイナンス/M&Aグループのメンバーまでお問い合わせください。

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