米国で事業を展開する企業にとっては、優秀な業務執行人材を確保し、自社に留まらせるために、一般的に米国企業が執行役員(corporate officer)に提供する福利厚生などの諸手当および保護に関する慣習について理解することが重要です。他社よりも高い報酬および有利な福利厚生パッケージをオファーするだけではなく、かかる執行役員に与える法的保護をマーケットの標準に合わせる必要があります。
米国では、多くの場合、CEO、CFO、COOなどの最高業務執行役員が雇用条件の一部として補償契約の締結を求めます。しかし、雇用主がどの程度の法的保護を提供できるかは、かかる企業に適用される州法に基づいて判断されます。米国の各州の会社法は、企業が執行役員を引きつけ保護するという利害と、彼らがその任務を怠った場合に不当な負担から株主を保護するという利害の間で、バランスを取ろうとしています。近時改正されたデラウェア州会社法では、執行役員に与えられる保護が拡大されます。より多くのデラウェア州の企業が、執行役員を引きつけ、確保しようとして、かかる保護を採用する傾向が高まるでしょう。
善管注意義務(duty of care)は、執行役員が法人に対して負う2つの基本的な信認義務(fiduciary duties)の1つであり、執行役員は、法人のために行動し、決定を行う際に、十分な注意を払い、情報を得たうえで行動しなければなりません。2022年8月以前、デラウェア州の法人は、取締役による善管注意義務の違反に対しては金銭的賠償責任を制限または免除できましたが、執行役員による違反に対しては同責任を制限または免除できませんでした。2022年8月1日、デラウェア州会社法の改正が施行され、デラウェア州の法人は、執行役員が善管注意義務に違反した場合の金銭的賠償責任を免除または制限する免責条項を基本定款(Certificate of Incorporation)に含めることが可能となりました。ここで留意すべき非常に重要な点は、(i) 善管注意義務の違反に忠実義務(duty of loyalty)の違反が含まれる場合、(ii)執行役員の行為または不作為が誠意(in good faith)によるものでなく、もしくは意図的な不正行為に関与するもの、または故意による法律違反である場合、または(iii)当該役員が問題となる取引から不当な個人的利益を受け取った場合には、執行役員を保護することはできないという点です。さらに、改正デラウェア州法の文言は、法人(会社)によりなされる請求(または株主代表訴訟のように会社のためになされる請求)から執行役員を保護する免責条項を含めることも禁じています。
デラウェア州の法人では、デラウェア州法で認められる範囲で取締役に責任免除を与えることが一般的であるため、優秀な人材を雇用する企業の多くが、デラウェア州法の改正により、執行役員に対してこのような保護を採用する可能性が高くなります。米国で優秀な人材を確保しようとするならば、執行役員や取締役に与える法的保護をいま一度見直し、必要に応じてアップデートすることが望ましいでしょう。
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