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連邦最高裁が連邦商標法(Lanham Act)の域外適用を制限

9.28.23
関連業務分野 知的財産テクノロジー

2023年6月29日、連邦最高裁は、Abitron Austria GmbH, et al. v. Hetronic International, Inc.事件において、第10巡回区控訴裁判所が下した判決を覆し、連邦商標法(Lanham Act)は米国外で発生した侵害行為に適用されないと判断しました。

Hetronic International, Inc.(以下、「Hetronic社」といいます。)は、建設機械用の無線リモコンの販売・サービス・製造を行う米国の会社であり、Abitron Austria GmbH(以下、「Abitron社」といいます。)は、Hetronic社の販売代理店でした。Abitron社は、当初はHetronic社からライセンスを得て事業を行っていましたが、その後、Hetronic社の知的財産権に対する権利を有していると判断し、Hetronic社製品のリバースエンジニアリングを行いました。その上で、Hetronic社の製品と同様の製品を製造し、Hetronic社ブランドのもとで他社に販売するようになりました。当該製品は、主にヨーロッパで販売されていましたが、米国で直接販売されたものもありました。

Hetronic社は、連邦商標法(Lanham Act)第1114条(1)(a)および第1125条(a)(1)に基づく商標権侵害を理由に、オクラホマ州西部地区連邦地方裁判所(以下、「地方裁判所」といいます。)においてAbitron社を提訴し、Abitron社による国内外の侵害行為に対する損害賠償を求めました。2020年、地方裁判所の陪審員は、Abitron社が国内外でHetronic社の商標を使用したことを理由に、Hetronic社に対する9,600万ドルの損害賠償の支払いを認めました。Abitron社は、この地方裁判所の判決に対して第10巡回区控訴裁判所に控訴しましたが、控訴裁判所は、地方裁判所の判決を支持しました。その後、Abitron社は、同社の侵害行為の97%が米国外で行われていたため、かかる外国での侵害行為に対して連邦商標法(Lanham Act)を域外適用することはできないと主張し、連邦最高裁に再審理を申し立てました。

連邦最高裁は、連邦商標法(Lanham Act)の域外適用範囲を明確にするため、上訴(Certiorari)を認め判決を下しました。連邦最高裁は、その多数意見において、長年にわたり適用されてきた米国法の原則、つまり、「米国議会によって制定された連邦法の適用は、反対の意思が示されない限り、米国内に制限されることが推定される」ことを再度確認しました。

この原則の適用には、2段階のフレームワークが必要となります。まず最初に、裁判所は、連邦議会が、「争点となっている規定が国外での行為に適用されることを断定的かつ明確に(affirmatively and unmistakably)示している」か否かを判断しなけれなりません。この第1段階の条件が満たされた場合、当該規定は、連邦議会が当該連邦法において定めた制限のもとで、米国外においても適用されることになります。この第1段階の条件が満たされない場合、裁判所は、第2段階として、原告が許容される連邦法の米国内における適用を求めているのか、許されない域外適用を求めているのか判断しなければなりません。この判断を行うにあたり、裁判所は、

当該規定が規制しようとしている行為および保護しようとする当事者を含む当該規定の「焦点」を特定するところから始めなければなりません。

裁判所は、この2段階のフレームワークに基づき、連邦商標法(Lanham Act)第1114条(1)(a)および第1125条(a)(1)について判断したところ、連邦議会がこれらの規定の域外適用を意図していることを断定的かつ明確に示す規定は含まれていないことを認めました。その上で、裁判所は、Hetronic社の請求を分析し、連邦商標法(Lanham Act)のもとで許容される国内適用が含まれているか否かを判断しました。裁判所は、争点となる2つの連邦商標法(Lanham Act)規定は、特定の条件下における商標の「取引における使用(”use in commerce”)」を禁ずることに「焦点」を当てていると判示しました。そしてこれら2つの規定の適用は国内に限られたものであるため、裁判所は、両規定は米国内での取引における商標の使用(”use in commerce”)にのみ適用できると判示しました。その結果、裁判所は、Abitron社の行為の97%が米国外で行われていたことから、それを侵害行為と認め損害賠償の支払いを支持した第10巡回区控訴裁判所の判断は誤ったものであると判示しました。

本事件で連邦最高裁が下した判決は、商標所有者が米国外の侵害行為者に対して自らの権利を行使できるか否か判断する上で大きな影響を与えるものです。連邦最高裁が示した新たなフレームワークを基準とすれば、米国の商標所有者が、米国国外で生じた侵害行為に対して自らの商標権を行使するのが非常に困難となり得るため、米国の商標所有者は、EUおよびその他の法域における商標の出願を検討すべきかもしれません。

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