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NLRBの共同雇用者に関する規則案について グループ会社内で検討すべきこと

9.30.24

概要

2023年10月、全国労働関係委員会(NLRB)は、2つの事業体を「共同雇用者」とみなすことがより容易となる同雇用者規則(Joint Employer Rule)を発表しました。当初、本規則は、2024年3月11日に施行される予定でしが、諸課題が生じたことで施行は見送られました。たとえば、米国連邦議会は、本規則を阻止する決議を採択し、また、テキサス州東部地区連邦地方裁判所は、本規則を無効とする判決を下しました。その後、バイデン大統領は、連邦議会の決議に対して拒否権を行使し、また、NLRBも本規則を無効とする判決を不服として控訴していましたが、NLRBは方針を変更して控訴を取り下げました。現時点において、NLRBは、今後の選択肢を検討中のようです。本規則案が今後どのように進展するかはまだわかりませんが、本稿では、共同雇用者に関する原則、および、NLRBの現行規則と今回の規則案について概説したうえで、雇用者向けのベストプラクティスをご提示いたします。

共同雇用者の地位(Joint Employer Status)の意味とそれが法的に与える影響

雇用者と従業員間の雇用関係により一定の法的義務が生じ、雇用者が、連邦・州・地方自治体の様々な労働・雇用法を遵守しなければならないことは周知の事実です。ただし、そのような雇用関係が必ずしも明確でない場合であっても、ある単一の事業体が、他の事業体との関係により、共同雇用者とみなされる場合があり、主たる雇用者と同様の法的義務を負うとされることがあります。1964年公民権法第7編(「タイトル・セブン」)や家族(育児)介護休暇法(「FMLA」)など、特定の雇用法においては、その法律の適用を受けるための最低基準を満たしているか否かの判断をする際に、共同雇用者の地位の有無が用いられることもあります。

全国労働関係法(National Labor Relations Act)(「NLRA」)の下では、共同雇用者であると判断された場合、特にグループ会社にとって重大な予期せぬ結果が生じることがあります。たとえば、ある親会社もしくは持株会社が、その子会社または関連会社との関係において共同雇用者であると判断された場合、グループ会社に属するある一つの事業体が不当な雇用・労働慣行を行ったことに対して、そのグループ会社に属する全ての会社が責任を問われることがあります。そして、共通の所有・運営関係にある全ての会社および施設等(労働組合の有無にかかわらず)に対し、組合結成の承認もしくは団体交渉が義務づけられたり、組合契約条件により拘束されたりする可能性が生じます。

共同雇用者テスト

共同雇用者の地位を判定するためのテストは、それがどの法律の、どの管轄に基づいて行われるかによって異なります。特に、NLRAに基づく共同雇用者の分析は、他の法律における共同雇用者テストの基礎となることがよくあります。

全国労働関係委員会(NLRB)の2020年共同雇用者テスト(現行規則)

NLRBの2020年共同雇用者テスト(以下「2020年規則」といいます。)では、ある事業体が、他の事業体の共同雇用者としての地位を有すると判定するには、かかる他の事業体における従業員の雇用に必須な雇用条件に対して実際に「実質的な直接かつ即時的な支配力」を有し、行使していることが必要とされています。他の事業体における従業員の雇用に「必須な雇用条件に対して間接的な支配力」を有することは、考慮される場合もありますが、共同雇用者の地位を決定づけるには十分とは言えません。

2020年規則では、「必須な雇用条件」を構成する8つのカテゴリーとして、(1) 賃金、(2) 福利厚生(benefits)、(3) 労働時間、(4) 採用、(5) 解雇、(6) 懲戒、(7) 監督、(8) 指示、が挙げられています。2020年規則では、他の事業体の従業員に対する散発的、単独的または軽微な支配力は、共同雇用者の地位を決定づけるには十分ではありません。

全国労働関係委員会(NLRB)の2023年10月の共同雇用者テスト(規則案)

2023年10月、NLRBは、2020年規則を、共同雇用者の地位の判定がさらに容易になるように大幅な改正を加えた判定基準に置き換えることを企図し、新たな規則(以下「2023年規則」といいます)を提案しました。具体的に、2023年規則案は、(1) 「抑えられた、間接的な支配」が共同雇用の証明となりうること、(2) 「必須の雇用条件」を構成するカテゴリーを変更し、(3) 単独的または軽微な支配が共同雇用の十分な証明となりうることを規定しています。

2023年規則では、事業体が実際に支配力を行使しているか否かにかかわらず、単に従業員の雇用に関するひとつまたは複数の必須な雇用条件を(直接的か間接的か、またはその両方かにかかわらず)支配・管理する権限を有していれば、同事業体は共同雇用者とみなされます。

さらに、2023年規則では、「必須な雇用条件」を構成する8つのカテゴリーを変更し、「職務遂行の方法・手段および懲戒処分の根拠を定める就業規則等」および「従業員の安全と衛生に関する労働条件」を含む、より広範なカテゴリーを追加しています。また、2023年規則では、事業体が人材派遣会社を利用する場合、ひとつまたは複数の「必須な雇用条件」に対して、少なくとも間接的に、影響を与える労働条件を適用していることから、かかる人材派遣会社を利用する事業体が、共同雇用者として分類される可能性があります。

2024年3月8日、テキサス州東部地区連邦地方裁判所は、商工会議所対NLRB事件(Chamber of Commerce v. NLRB)(No. 6:23-CV-00553, 2024 WL 1161125(E.D. Tex. 2024 Mar. 18))において、2023年規則を無効とする旨の判断を示しました。本訴訟の事件とは別に、2024年1月には米国連邦議会の下院が、および4月には上院がそれぞれ、議会審査法(Congressional Review Act)に基づき、2023年規則を無効とする旨の決議を採択しました。しかし、バイデン大統領は、2024年5月3日に、この決議に対して、拒否権を行使しました。下院は、同年5月7日に大統領の拒否権を覆すことを試みましたが、大統領の拒否権を覆すために必要な2/3の賛成票を得ることができませんでした。

このテキサス州連邦地方裁判所の判決により2020年共同雇用者テストが維持されることとなり、現在でもなお有効な基準として、運用されております。NLRBは、テキサス州連邦地方裁判所の判決に対する控訴を取り下げましたが、裁判所への提出書類の中で、「連邦地裁が意見書で特定した問題をさらに検討したい」、また、「同様の問題を提起する共同雇用者に関する規則制定に向けての準備をしている」と述べています。

ベストプラクティスと重要点

当然のことながら、企業は、通常、共同雇用者とみなされることを望まず、(共同雇用者としての)追加的責任や団体交渉の義務、またはその他の影響を避けたいと思う傾向にあります。NLRBによる2023年規則の実施状況が不確実なこと、および同規則の改正や新規則の制定の可能性を踏まえ、雇用者は、共同雇用者とみなされるリスクを最小限に抑えるための措置を講じるべきです。具体的に、例えば、親会社は、次に掲げる対応をすることをお勧めいたします。

  • 子会社・関連会社の従業員を自社の従業員として扱わない。たとえば、かかる従業員の名刺に親会社の名称を表示しない、またはかかる従業員に提供される会社の規則やオファー・レターに親会社の名称を表示しないなど。
  • 子会社または関連会社の各社が、それぞれの雇用規則に関する意思決定と実施を、それぞれの会社内で行う旨を明確に文書化しておく。
  • 子会社または関連会社における従業員の採用、解雇、懲戒処分および監督が、確実に各社で行われるようにする。さらに、当該子会社または関連会社の従業員の採用・解雇手続きに介入せず、また、特定の状況において子会社・関連会社の従業員を採用・解雇する権利を留保しない。
  • 自社に適用される法律に基づいて共同雇用者の地位が認められる明確なリスクがあるか否かを評価するために、グループ会社全体を対象に監査を行う。

本件に関する今後の動向および職場での影響などについて何かご質問がある場合は、ノーリーン・アムジャッド弁護士(Naureen Amjad)、リーバナ・サックス弁護士(Riebana E. Sachs)または雇用/労働法/福利厚生部門のメンバーまでお問い合わせください。

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